十五世紀のドイツの錬金術師ヴァシリウス・ヴァレンティヌスの解釈によれば、これはどのアルファベットでも最初にくる文字(A)に、ラテン語の(z)、ギリシア語の(o)、ヘブライ語の(th)、というそれぞれの言語の最後の文字を加えて作られたもので、始まりであり終わりであるということを意味するものであるという。キリストが自らをアルファ(ギリシア語の初めの文字すなわちA)でありオメガ(ギリシア語の最後の文字すなわちO)であるといったように、この象徴は完全なる知であるグノーシスそのものとしての意味を持つ。
つまり、上と下、男と女、発端と終末といったあらゆる対立物の合一を象徴したものがアゾートなのである。これは錬金術の最も究極的な目標であるが故に、アゾートは他の様々な象徴とも同一視される。ほぼ同義に使用される語としては、賢者の石があげられる。
また一般的な辞書などでは、パラケルススの用いた用語アルカヘスト(alkahest)とも同一とされる場合がある。ただし最上位の象徴としては同一視される場合も有るが、アルカヘストは一般に万物溶化液と訳される全ての物質を溶かす溶液のことである。
左に示した図版は、十五世紀のイギリスの錬金術師トマス・ノートンが著わしたとされる『錬金術式目』("The Ordinall")中のものである。
太陽と月という対立の調和を図る双頭のドラゴン。それは硫黄と塩のバランスを取る水銀の象徴でもある。対立物の合一、それはすなわちアゾートの謂いでもある。
ノートンの師である、ジョージ・リプレーは賢者の石の製造法について言っている。「一なるものから三を分離せよ、さすれば石が手に入る」。